【リフォーム施工事例】大工の仕事は段取り勝負 M邸リフォーム -2

家のリフォームを行う際、一般的には、リフォーム専門業者やハウスメーカー、地元の工務店や設計事務所に発注することがほとんどだろう。
いっぽう、東京塗装は職人さんによる職能集団だ。東京塗装の職人さんたちの間に、主従関係はない。腕に覚えのある方が集まっていることに疑いはなかったが、リフォームのように依頼内容が多岐に渡る場合、誰がどうまとめていくのかのイメージを抱けずにいた。いくら施主とはいえ、素人の私が全工程を管理・采配することなど、やりようもない。

初回の下見で職人さんたちが集まり、ひと通りの確認を終えた後、「もしよかったら、僕がとりまとめますよ」と、ひとりの大工さんが声をあげてくれた。吉川工務店の吉川さん。工務店で大工として長年経験を重ねた末に独立し、現在は親方として大工を続ける吉川さんが、とりまとめ役を引き受けてくれた。
今回のリフォームにおいては、床の張り替えや台所の移設など、「大工仕事」と呼ばれる工程が多い。他の職人さんたちも、もちろん私も、吉川さんが取りまとめることにその場で快諾した。

後日改めて、吉川さんが現場の下見に訪れた。
壁をたたいて音を聞き、下地確認用の針を壁に刺しながら、なにかを確認している様子だった。
「穴を開けてもいいですか? 中がどうなっているか、穴を開けないとわからないんです。」
物件の引き渡しが終わったばかりの家の壁に穴を開けることに若干とまどいつつ、私は穴が開けられる様子を見守っていた。

「穴を開けないとわからない」と、吉川さん。リフォームでは、目視での確認を重ねることが重要だ。「穴を開けないとわからない」と、吉川さん。リフォームでは、目視での確認を重ねることが重要だ。

キリと小さなノコギリを使い、20cm×40cmほどの穴が、壁に1箇所、天井に1箇所開けられた。
「壁の中の様子が、だいたいわかりましたよ。天井裏のつくりもわかりました。ご依頼の内容、だいたい実現できそうです」
このときまで吉川さんは、こちらからの依頼事項について、実現できるかできないかの判断を留保していた。
「できるって言ってから、やっぱり無理だったとなると、お客さんをがっかりさせちゃうじゃないですか。それ、一番やりたくないんです。」
吉川さんは他にも、風呂場のサイズや洗面所の配管、壁紙の材質、階段の手すりなど、それぞれの寸法や状態の確認を、細やかに重ねていた。その後数日かけて、吉川さんと私の間で細部についてのやりとりをく続けた。

「では、だいたいの工程表を作ってお送りしますね。工務店時代には、現場監督もしていました。先輩から、大工の仕事は段取りが9割と教えられました。今もそう思っています」
後日、エクセルで作られた工程表が、メールで届いた。東京塗装の職人さんたちの工程と日数が割り振られた、考えに考え抜かれた工程表だ。

実に多くの方々が関わってくださったリフォームとなったが、誰かに無理が強いられるスケジュールは皆無だったように思う。また、工程表よりも10日ほど前倒しして、リフォームは完了している。各工程における作業内容、納期と荷受、そして、そこにたずさわる方々の仕事のやり方や気持ちまで配慮された、完璧な工程表だった。当初の私の頭の中は五里霧中だったが、リフォームを終えた今は、吉川さんが言った「段取り9割」に、深く頷く。

まだセミの鳴き声が聞こえるころ、初工程となる解体と撤去がはじまった。