上村 美年

uemura水まわりの工事ひと筋で30年続けてきた上村さんは、地元の大田区では名士として知られている。キッチンやトイレ、お風呂まわりのリフォームや新設が上村さんの主な仕事だが、急を要する依頼も、実は多い。「漏水」の対応だ。

水漏れが発生してしまったと聞けば、土日祝日も関係なく、すぐに現場に駆けつける。上村さんが原因を探し出すに至る時間は短く、必ず対応方法も提示している。漏水調査で客先に向かった際に、「できない」を言わないことが上村さんのモットーだ。

上村さん自身も漏水調査に大きなやりがいを感じながらも、あくまでもメインの仕事は水まわり全般だ。キッチンや給湯器の交換などだけでなく、配水管の工事も行っている。上村さんは、トータルで考えることを何度も強調していた。その意味するところが筆者には当初わからなかったのだが、お話を聞いているうちに、上村さんの「トータル・コーディネイト」が少しずつわかってきた。

例えば洗面台の交換時、筆者ならば、どの洗面台を選ぶかに気が行ってしまいそうだが、上村さんが大切にしているのは下地づくり。漏水や故障などがおこらないよう、下地をしっかり作るよう心がけている。

また、台所や風呂場などのリフォームやメンテナンス時には、排水管の勾配に気を配っている。排水管には規定の勾配値が設定されており、規定値を下回るとスケール(ゴミやカス)が溜まりやすい。この勾配値はあくまでも目標値であり、守るも守らないも職人さんしだいなのだそうだが、上村さんは、この値を遵守して作業をしている。

ほかにも、配管がなにかに挟まれることのないように固定したり、強度を高めるためにできるだけ肉厚の配水管を使ったり、トイレや風呂場などで水を流す際の音を小さくするために消音パイプを使うなど、上村さんはあらゆる配慮を怠ることがない。

きちんと流れて漏れない配管があってこそ、新しいキッチンもトイレも気持ちよく使うことができる。そして、しっかりとした配管はメンテナンスの回数が少なく済むため、維持費用は相対的に低く抑えられる。目に見える設備と、目に見えない設備の両方をトータルで考える水まわりが、上村さんの真骨頂だ。

「自分の家をつくるつもりで、いつも仕事に挑んでいます」と、上村さんは言う。気持ちよく流れて漏れない水まわり、上村さんにお願いしてみたい。


ウエムラさんの仕事ぶり(1)6月某日、水まわり工事ひと筋の上村さんの現場を訪ねた。上村さんは、マンションの一室で、風呂場を新しくする工事にとりかかっていた。

この日は古い風呂場の解体・撤去作業だった。浴槽や壁を取り外したのち、新しい設備をとりつけるために不要となる、床のタイルを砕いて取り除いていた。

外しては運び出すことを繰り返す作業だ。ごく一般的な大きさの風呂場だが、取り外したものの総量はけっこうなボリュームがある。限られたスペースしか使えない集合住宅では、その都度エレベータにのり、階下に停めたトラックに積み込まなければならない。

ウエムラさんの仕事ぶり(2)今回の解体作業に従事する職人さんは、上村さんを含めて4名。ひとりは主にトラックで待機し、2名が解体と運び出しを担当。上村さんは進捗を見ながら、後工程を考えつつ指示を出している。2人でもできるのでは?とも一瞬考えたが、しばし作業を見つめながら、2人ならば、このようには事を進められないことがわかった。

外した部材からは細かなゴミや粉砕カスが出てくるが、常に手の空いた人がほうきでさっと掃き取っている。解体した大きな部材は、溜め置くことなくすぐにトラックへと運び込んでいた。現場となるお宅の入り口周辺は常に整然としているため、壁や床を外す際の音を除けば、外からは、解体工事をしていることは気づきにくい。

この規模の解体作業は、だいたい4人で行うものなのかと、上村さんに聞いた。

「いやいや、普通は2、3人ですよ。ただマンションの場合は、4人いるとなにかと都合がいいんです。周りに迷惑をかけると、結局それは施主さんの迷惑になってしまうから。でも、今日は俺の日当は、出ないなぁ」上村さんは、カラッと笑った。

施主のご主人が、室内から風呂場の様子をときどき見に来ていたが、常にニコニコ。上村さんを信頼していることが、表情から伝わってきた。

今回の解体作業では、配管工事や下地づくりなど、上村さんの技が見られる局面はなかった。しかし、「整然と解体を進める」こともまた、上村さんならではの技のひとつだ。

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