澁川恵庸
写真の経験が色づくりにも活きる
澁川さんは、大学では写真を学び、卒業後は大手広告代理店の仕事を請け、数々の建築物の撮影を行ってきた方だ。その後、家業の塗装業を引き継ぐに至ったわけだが、写真家時代の経験は、塗装の仕事にも活きている。
「赤を塗るときは、白を下地に塗ると、真っ赤に塗りあがります。黄色を塗るときは、下をピンクで塗ります。そうすると、真っ黄色になるんです。」
色の組み合わせへの配慮は、カメラのファインダーを覗き込んでいた時代に培われたものだ。
写真を撮っていた際に育んだ感性のようなものもまた、澁川さんは今も大切にしている。
「ハッとする気持ちを持つように意識していました。今も、この感じは続いています。塗料の色作りにも、つながっているんです。」
大切な「ハッとする気持ち」とは
「ハッとする気持ち」を大切にされていることは、趣味にも色濃く反映されている。陶器や絵などの骨董品鑑賞や、美術館、骨董市、古本屋巡りが好きなだけでなく、自宅の窓際は観葉植物で埋め尽くされているらしい。「美しいものに触れ続けることが大事です」とも。
澁川さんはまた、「すごい洗い屋を呼びますから」と言われるほどの、伝説の洗い職人でもある。
洗い職人とは、仏間などの和室や重要文化財など、古い木造の家屋をきれいに洗う職人さんのことだ。和室が減ってきた現在では、需要が随分と少なくなったらしい。しかし、あえて水だけを使った清掃や、竹や木を刷毛状に束ねたササラによる洗浄など、細やかな技術と心遣いを伴った澁川さんの「洗い」を今も必要としている人は、きっと多くいるだろう。
塗装と洗いのみならず、ドアの修理や草抜きなど、仕事をやっていて気がついたことはなんでも提案しているとのこと。「結構、重宝されると思いますよ」とはご本人の弁だ。
実は、さらには、落語にまでも精通した方だ。
澁川さんの仕事現場にはきっと、「ハッとさせられる美しいもの」を話題に盛り上がる、穏やかで楽し雰囲気があるに違いない。